犬の痴呆症(認知機能障害)について

2017年11月10日

こんにちは。

今回は犬の痴呆症について書きます。ご存知かと思いますが、人の医療ではすでに痴呆症ではなく、認知症に置き換えられています。
当院でも高齢の柴犬の飼い主の方からの、昼夜逆転、徘徊、泣き叫ぶ、などの相談は非常に増えています。

 

定義

日本では1995年に犬の痴呆症の定義として、「高齢化に伴って、いったん学習によって獲得した行動および運動機能の著しい低下がはじまり、飼育困難となった状態」と定義され、その診断基準も作成されています。

 

発症年齢と品種

一般に犬で9歳以上、猫で11歳以上で、年齢が増すにつれて罹患率が増加します。経験的には、犬では13歳以上、猫では15歳以上で痴呆症状に気づくことが多いと思います。
犬の痴呆症はおそらくどんな犬種にも発症する可能性があるでしょうが、日本国内では日本犬での発生が大多数です。
2008年の報告では痴呆症の犬のうち、日本犬(柴や日本犬系雑種)の割合が83%とされています。

原因

はっきりとしていませんが、人間の場合と比較検討されています。人のアルツハイマー病と同じような変化が脳に発生していることが原因と推測されていますが、異なる点もあります。また発症要因として、活性酸素やフリーラジカルによる酸化ストレスが考えられています。

症状と診断

痴呆症を疑う場合も、もちろん、一般的な病気がないかを考え否定します。特に甲状腺機能に問題がないことを甲状腺ホルモン(T4)を測定して確認しましょう。

痴呆症の症状は多岐にわたるため、症状にもとづいた診断基準リストをチェックし、点数化します。日本では内野式100点法が用いられることが多いでしょう。どんなことに普段注目したら良いかも分かりますので、興味のある方はチェックしてみてください。

犬痴呆の診断基準100点法

 

治療

基本的に痴呆症は治ることはなく、進行していきます。
ですので治療の目的は、

・できるだけ病気の進行を遅らせること
・動物と家族の生活の質(QOL)を維持もしくは向上すること

です。有効と考えられている治療法について以下に書きます。

1.行動療法

人間と同じく、心身に刺激が少なければ肉体とともに脳は衰えていきます。体を使って脳を刺激することのできる知育トイなどがオススメです。ゆっくりでもいいので散歩にも積極的に連れ出しましょう。

また、吠えたり、トイレを失敗したりと、痴呆症に伴っていわゆる問題行動が目立つようになります。これらはもちろん犬が故意でしているわけではありませんので、叩く、叱るなどの対処法をとってもストレスを与えるだけなので絶対に避けましょう。

生活環境の整備も重要です。床に滑りづらいものに変えたり、犬を混乱させないように家具の移動や模様替えもほどほどにしましょう。

2.食事療法

痴呆症の原因として、脳のミトコンドリアの問題、脳の酸化的損傷や多価不飽和脂肪酸の不足などの要因が考えられているため、これらを補う栄養学的な食事療法が有効と考えられています。以下に挙げると、

  • ビタミンC・・・抗酸化物質
  • ビタミンE・・・抗酸化物質
  • セレニウム・・・抗酸化物質
  • L-カルニチン・・・ミトコンドリア補因子
  • α-リポ酸・・・ミトコンドリア補因子
  • ω3 不飽和脂肪酸(DHA・EPA)・・・神経細胞膜安定化、セロトニン作用増強、PGE2抑制
  • フラボノイドやポリフェノールなど・・・抗酸化作用・抗炎症作用

などがあります。

3.薬剤療法

痴呆症を治す薬はありません。進行を遅らせたり、鎮静作用を期待する薬が使われます。
ジアゼパム、アセプロマジン、フェノバルビタールなどの薬を鎮静目的で当院では使用していますが、それ以外にも用いられる薬はあるようです。

まとめ

残念ながら認知機能障害は進行していきます。
初期には経過を見るような形でも、進行とともに介護が必要となり、介護をされるご家族の身体的・精神的負担が徐々に増えることになります。
特にご家族の中でも特定の方にその負担がのしかかることが多いようですので、介護が必要になる前に備えることが重要と思います。
思い悩まれた結果、安楽死の相談を受けることも多くありますが、これは認知機能障害の中期で悩まれる方が多いと思います。治すことができない病気ではありますが、獣医師にストレートに思っていることを相談してください。

 

人間の介護と同じなのかもしれませんが、まず1人で抱え込まず、ご家族と動物病院で対処していきましょう!

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